二条城絶叫

john fruscianteと荒木飛呂彦と舞城王太郎と伊藤計劃が好きすぎて二条城にて絶叫。連絡先は2jojojotaroアットマークgmail.com まで。 Last.fmのアカウントはhttp://www.lastfm.jp/user/nijojo

書評/貴志佑介/ダークゾーン

 4時間かかって読了。一人称的三人称。

 

 

 ”良い← 傑作 名作 秀作 良作 佳作 凡作 駄作 愚作 →悪い”

 

 ネットで感想や書評を調べてみると、女性読者が凡~愚、男性読者が佳~愚までと全体として評価が悪い作品。わたしは佳作だと思う。ネットで悪いとされている評点はいくつかあり、まとめると、1.リーダビリティがない 2.展開が読めて読むのがつらい 3.キャラに魅力がない 4.貴志の出した過去作と比べると見劣りする 5.オチが糞 とったところだろうか。

 

 

 

 ネットの感想で散々言われているリーダビリティの悪さは感じなかった。悪の経典と変わらない。ある程度の説明なく将棋用語が頻出する点もリーダビリティの悪さには直結しないだろう。奨励会でプロ棋士になろうと足掻く若手の業の深さや苦悩をホラー仕立てで演出するためには必要な要素であり、ネットで多くみられる将棋に興味が持てないから読むのが辛い、という書評は書評というよりも感想に近い観点だと思う。問題とされるべきは棋士問題なのは同じ事の繰り返しである(七番戦というのが目次でわかっていてそれが殺し合いの緊張感を削いでいる。復活することがわかっているので読んでいても熱が上がらない)ため読むのが単純に辛くなるのは構成に難があるため。第X局というタイトル付よりも日付方式にいた方が良かったのではないか。断章も含めてタイトルナンバリングを進め、フォントの変更で示唆する手法を用いる方法をとったほうが良かったように思う。局に固執するならばカットバック部分も全て将棋の対局を絡めて(強めて)構成すれば最後まで読ませる力を維持できたはず。

 貴志さんの書く文章は読みやすく、文章量的にも2時間半で読めていたであろう今作に4時間も掛かってしまったのは上記の理由からだろう。切れ間で休憩してしまい一気呵成に読めなかったのだ。連載作であるし大幅な加筆修正は金にならないから仕方ないのだけど、構成さえ違っていればもっと評価が高かったのではないのかなぁと思う。

 

 

 

 主役のキャラクター設定にも難があるように思う。奨励会でプロに成りきれず心の中にドス黒い澱を溜め込んで人生を呪い続ける主人公であれば、夢の中で勝ちに執念を燃やし殺し合いを続ける鬼界に落ちても納得できるが、今作で描かれる主人公は執念と言うよりも、惰性による執着の持ち主だったためオチの説得力が失われていた。そこさえクリアしていれば他の瑕疵も相乗的に働く美点になり、佳作~ではなく傑作~の高評価を得られたはず。

 上っ面だけであり、掘り下げが出来なかったのは、わかりやすさを追求するテレビ的エンターテイメントと内面に重きをおく小説的エンターテイメントの二兎を追って失敗してしまったからだろう。映像化作品であればおそらくこれほどの低評価はつかないはず。また、固定客の求める小説像からかけ離れていたのも評価を悪くする一因だったのかなと思う。将棋に興味を持つ女性は少ないし、男性ですらそうなのだから、いっそ娯楽という味付けを切り捨て、新しい境地に挑戦する作者の新作という演出で売った方が良かったのではないか。

 セックスしててイキそうになったときに「もうやめられない。すでに”寄せ”に入っている」と独白する主人公はかなり面白かったので、三人称でなく一人称で、もっと将棋用語をガンガン書き連ねて棋士がどういう世界で物事を見ているのかを描いたらもっと面白かったんだろうなぁと思う。三人称の浅さと一人称の深さの使い分けというかなんというか。